「晴音の夏」-5話-1

 次の日、晴音は家に来なかった。オレもすぐに謝ればよかったのだがタイミングがずれて変に意固地になってしまった。
元々、晴音の方が誘うようなマネをするからいけないんだ、とか・・・。
 ただ、昼を過ぎて午後になってゴロゴロしている最中も晴音の悲しそうな顔が浮かんでしまい、結局オレは起きあがって
晴音の家まで行くことにした。言い訳するのはめんどくさいと思いながら、やっぱり晴音とあんな形でこじれるのは良くないだろう。
とりあえず無理矢理しようとしたのは謝らないと・・・。

 オレが晴音の家に向かっていると丁度制服を着た晴音も玄関から出てきた。オレは声をかけようとしたが、気づかず背を向けて
歩いた晴音に言葉が出なかった。完全にタイミングを外してる。
 しかしオレは意を決して晴音の後ろ姿に声をかけた。男だ、逃げちゃいけない。

「おい、晴音!」オレは駆け足で追いつく。晴音はびっくりしたような顔をしていた。
「昨日は・・・ごめん。謝る」「・・・うん。わたしもゴメン・・・」「いや、強引すぎたし。でもオレ・・・」
「いいよ、もう気にしてないから」「そうか、でも・・・」「あーもうこれでおしまい!ねっ」そう言って晴音は微笑む。
「ああ。で、お前どこか出かけるのか?」「あ、うん」晴音は途端に暗い表情に。
「どうしたんだよ、そんな顔して」「うん・・・」「心配事か?お詫びってわけじゃないけどなんでも言ってみろよ。手伝えるなら
やってやるから」
「・・・って言われた」「ん?」
「クラスの男子に好きって言われたの」「え!?お前が?」「なんだよー無礼者!わたしだってコクられるんだよ」「そうか・・・」
何故かオレの方まで緊張してきた。
「で、どうすんだ?」「みればわかるでしょ。断る。ううん、もう何度も断ってるんだけど、諦めてくれなくて」
「しつこいのか」「うん。あれじゃストーカーだよ」「そう、か・・・」
と、晴音は顔を上げてマジメな顔でオレの正面からじっと見る。「おにいちゃん付いてきてくれる?」
「オレが?ってこれお前の問題だろ」
「来て欲しいの・・・」
晴音はジッとオレをみつめた。真剣な表情にオレの中で何か小さく決意みたいなものが出来た。
「・・・わかった。行こう」
「ありがとう、おにいちゃん」
「うん。行こうか」オレ達は並んで歩いた。

 待ち合わせの場所は学校の裏手だった。田舎なので噂を気にしてわざわざ制服を着て、学校に用があったかのようなフリをした
のだと晴音は言った。オレは笑って、そんなに気を遣うタイプだったのかと意外に思った。こんなに長いつき合いでもまだまだ知ら
ない一面がある。急に晴音がキラキラと輝いて見えた。オレは自然に晴音の手を握った。晴音は微笑んで握りかえした。

 学校の裏にはすでに呼び出した男がいた。ヤツはオレ達に気づくと驚いた様子だった。オレは手を繋いだまま一歩ずつ確かに進む。
晴音の足が止まった。「あ・・・」男がおどおどした目を向ける。
晴音の息が聞こえ、こう言った。
「ごめんなさい」晴音は手を強く握る。オレも握りかえす。そしてオレは男をまっすぐ見て言った。
「オレ達つき合ってるから。オレの彼女にちょっかい出さないでくれ」
はっきりと言った。男はゴニョゴニョと何か言っていた。しかしオレ達の視線に耐えきれなかったかの
ように、やがてうなだれて去っていった。

オレは男の姿が見えなくなると、大きなため息。
「ふー!緊張したー」そういって晴音を見たらこっちをみつめていた。
「ありがとう、おにいちゃん。わたしの為にウソついてくれて」はにかんだような、今までにない晴音の顔がかわいい。
オレの気持は決まった。いやとっくにわかっていたのだ。素直になれるかどうかそれだけだった。

「ウソじゃねぇよ」「え?」
「ウソじゃねぇって。その・・・オレとつきあってくれないか」
「・・・・ホント?」
「ああ、本当に。晴音のこと好きだから・・・」
言ったあとでどうしようもなく舞い上がってしまった。
 晴音は息を吸って俯く。オレは心配っていうか、やっちゃったかーと半分諦めかけた、が・・・

「わたしもだよ、おにいちゃん。おにいちゃんのこと好き」
「好きって・・・」
「勿論恋人として・・・オーケーだよ」
「晴音・・・」
オレは嬉しかった。
「晴音!」
晴音を抱きしめる。小さい体をギュッと強く、やさしく。
「おにいちゃん・・・」体を少し離す。
晴音は目を閉じていた。オレはすごく自然に晴音と唇を重ねる。やわらかで熱い感触。


唇を離すと晴音は俯く。
「ファーストキスでした・・・」
そう言って小さく笑う。オレは晴音の頭を撫でて何度も頷いた。 

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