「晴音の夏」-4話-1
晴音はいつも9時前にはウチに来るのだが、この日は15分ほど遅かった。
気になってオレは丁度玄関の戸を開けていたが、向こうからやって来る晴音の顔が見えた時、
その表情がいつもより曇ってみえたのは気のせいだったのだろうか。
「遅いぞ〜」
「いやーゴメン。友達から電話かかって来ちゃってさ」
「なんだ、遊びにでも行く約束か?」
「ううん、違うの」ほんのちょっとトーンが落ちるが
「さぁ勉強しよ!」と晴音はオレの手を引いて家に入る。
まぁ友達の間にもいろいろあるんだろうからオレはあまり突っ込まないでおこうと思った。
いつも通り昼前まで普段通りに勉強してから、一段落ついてオレは気になっていたので言った。
「おまえさぁ、友達付き合いとかあんだろ。たまには遊び行ったりしないのかよ」
「行ってるよ。土日お兄ちゃんの授業お休みの時に」「ならいいけど」「なに、心配してくれてんの?」
「勉強もいいけどさ、夏休みなんだから友達も大事にしろってこと」「そうだね〜サンキュ」
「大体オレもたまには休みたいよ」「なんだよ結局それが言いたいんじゃん」ぷぅと晴音はむくれる。
と、急に晴音はなにか思いついたようにニヤニヤと。
「・・・不気味な」
「あのさ、午後空いてんでしょ」「聞くな」
「じゃぁお昼食べたら一緒に遊ぼうよ」
「遊ぶって町行くのかよ。かったりー!暑いし」
「もうじいちゃんじゃないんだから。町なんか行かないよ。お金無いし。川行こう」
「川?」
「昔結構泳いだじゃん。水着あんでしょ」
「そりゃあるけど、随分お手軽な」
「いいの。今日暑いし昼寝してるより有意義だって」
「いつからそんなに建設的になったのやら・・・」
「じゃあ水着用意しておいてよ。お昼食べたらすぐ来るから」「って決まりかよ」
「ああ、飲み物とか持ってきてね。例えばカル・・・」
「あー!わかった。メシ食ったらスタンバイしておくから、なっ」勝者の笑みで拳を突き出すと晴音は誇らしげに帰っていった。
まぁ本当のところオレも晴音の水着姿は数年ぶりなので興味もあった。胸はそれほどでもないのでナイスバディで悩殺とかほとんど期待して
いなかったのだが、やはりどのくらい成長したのかは気になるものである。
昼飯を食べてから引き出しから水着を出してとりあえず履いておく。川は歩いて5分程の所を流れていたからそのまま行っても構わないんだが、
さすがにこの歳になると海パン一丁でウロウロするというのも恥ずかしいんで、Tシャツと短パンを上から着込んでタオルを持った。
飲み物は冷蔵庫にウーロンのペットボトルがあったのでそれを掴んで完璧。
しばらくして晴音もやってきた。こっちは水着の上にTシャツのを着ているだけ。晴音らしい。
「じゃぁ行こう〜」「おう」

川は結構護岸工事が進んで下流では昔と随分違った景観になっているが、オレ達の家の近くではまだそういう工事はされていないのでまだ自然のままが
残っていた。それでも確かに子供の頃に比べたら川底もちょっと透明度が薄れた気がするが。でも泳ぐには全く問題ない川があるだけまだ自然が十分残っ
ているんじゃないかと思う。
「じゃ泳ぐかー」
「おい、ちゃんと体動かしてからにしろよ。川の水は冷てーんだから」
「わかってるよ」そう言って晴音は勢い良くTシャツを脱いだ。下には紺の学校指定水着。
「お前水着ってそれなの」
「うん、これしかない!」
「断言してんなよ」
「だってプールなんて滅多に行かないし」
そう、なまじ泳げる川が近いせいかプールに縁がないのだ。オレもそう思うが、少しは期待していたのだ。もうちょっと露出のあるのを。
スク水属性があれば素直に喜べるのかもしれないが。
「うひょーつめたー!」とばしゃばしゃと川に入る。オレも服を脱いで川に。日差しがジリジリと暑いが確かに川の水はひんやりとする。
「ああ嵐がっ!突然の嵐が来ました!」と晴音は突然手で水を掻いてオレにかける。まったく子供と変わらない。
「てめっ」とオレも足で川面を蹴って大量の水しぶきを晴音にお見舞いする。
川の深さは大体膝下くらいなのだがちょっと行くと急に腰くらいになって、淵では2メートル以上の深さになっていた。オレ達は水を掛け合いながら泳ぎ
ながらしていた。
「ねぇおにいちゃん、『宝島』行ってみない?」
「ああいいけど」
「じゃあ競争!」
「まてっ、フライングだ!」
『宝島』とは淵の近くの川から突きだした岩のことだ。そこも周囲が水深が1メートルほどあったので泳がないとたどり着けない。
オレは20メートル上流のその場所めがけて泳ぐ。晴音も泳ぎが得意だったのでなかなか追いつけず結局晴音の勝利となった。

「勝ったー!」
「おまえフライングしただろ、失格だ」
「んま、負けを根に持つとは男らしくないよ、おにいちゃん」
憎々しげに晴音が人差し指でオレの鼻をつつくが、晴音の笑顔が可愛くて「くそー」とオレはありきたりな反応しか出来なかった。
「よし、上陸〜!隊員、手伝って」
「って隊員かオレ?」
「川淵隊長ごっこやったじゃん、昔」
「昔はおまえが隊員その1だったがな」
「出世したのだよ。ほらいくよ」晴音は岩を掴んで身を起こしてオレの肩を踏み台にしてよじ登った。
オレも続いて岩に登った。
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