「晴音の夏」-1話-



オレの家の隣に晴音っていう4つ下の女の子がいる。隣といっても200メートル近く離れているんだが、オレらの住んでいる所ではそれでも
近い方だったし、ご近所の内なのだ。
 家が隣ということでオレはこの晴音と子供の頃からよく遊んでやった。晴音もオレのことを『おにいちゃん』と呼ぶし、兄弟のいない
オレも晴音を実の妹のように思って結構仲良くやっていた。
 だがそんなオレも中学、高校に通うようになってから晴音とはほとんど遊ばなくなった。まぁ行っている学校も違えばそれぞれ友達がいるし、
まして子供の頃のような遊びをするわけでもないから疎遠になるのは自然のなりゆきだろう。

 そんなオレと晴音だったが今年、初詣の神社で偶然会ってからよく家の近くで話をするようになった。話といえば来年受験生になる晴音の勉強の
こととか、部活のこととか誰でもある悩みなのだが、頼って話してくれるのでオレも結構親身になって応えていた。昔馴染みというのか、つい兄貴
風吹かせて説教っぽくなることもあるのだが、そんな時も晴音はいやがらずに素直に聞いていた。

 オレは今まで晴音を女として意識したことがなかったが、ここ最近妙に晴音のことが気になる自分に気づいていた。野山を一緒に駆け回っていた
頃は本当に男の子と間違われるくらいだったのが、今は多少は女らしい体つきになっている。胸だって気づけばふくらんでいたし(大きいってほど
じゃないんで)制服のスカートも意外に似合っていた(というと怒るが)。
 しかしこんな風に晴音を女として意識してるとオレはちょっと罪悪感を感じてしまう。何故ってそれはオレを兄のように思っている晴音に対して、
オレの方が下心持っているなんてことが卑怯な気がするからだ。実際の兄妹じゃないんだし気にすることもないんだが、晴音の気持を考えるとやはり
手は出せない。長いこと兄貴の代わりをしていたら本当にそんな気分になってしまったというのもあるだろう。でも・・・・


 「おにいちゃ〜ん!」
夏休み前の短縮授業になったある日、晴音はオレをバス停で待っていた。
 オレはこの日学校でムカついたことがあって、キレる寸前だったのだがなんとか堪えて帰ってきたのだ。でもイライラは消えるわけもなくその上
容赦なく照りつける梅雨明けの太陽がジリジリ暑く、オレの神経を苛立たせていた。
 「ハルネビーム!」
「なんだよそれ」
「えー覚えてない?昔の必殺技」
 「んなの忘れた」
 「むむ〜もうボケかのう」
 「うるせっ」

 「おにいちゃん、怒ってる?」
 「おこっちゃいねーよ。なんか用あるのか?」
 オレ達はバス停から歩いて家に向かっていた。周りは田んぼの農道で、ムワッと蒸す草いきれがオレの心を逆なでする。
「うん、あのさぁ、今度夏休みからわたしも夏期講習受けに行くんだ」
 「夏期講習っておまえ受験まだだろ」
 「うん、でもこういうのは早いうちから慣れてた方がいいし、それに・・・」
 「いいとこ狙ってんのか?」
 「まぁ・・・うん・・・・」
 「すげーな。がんばれよ」
 「・・・うん」
ちらっと見ると晴音は微笑んでいた。なんかかわいいなぁ〜とオレはほのぼのと和んだ。

 一瞬風が吹いた。田んぼの緑が波になってオレ達のを横切る。その時、オレは晴音の匂いを吸い込んだ。
 衝動というのだろうか、オレは急に性格が変わったかのように、無性に晴音をなんとかしたいと思った。
 なんとか・・・・オレの・・・

 「晴音、お前どこまで行くんだよ夏期講習」
 「えーと、○市の駅前だけど」
 「○市っていったら電車に結構乗るなぁ。お前痴漢に遭ったことないだろ」
 「ないよ〜滅多に電車乗らないし・・・出るの?」
 「当たり前だろ。○市っていったら都会じゃねぇか。これだから田舎育ちは」
 「おにいちゃんだってイナカモンじゃんかよー」
 「よし、わかった。オレが痴漢の対処法を教えてやる」
 「えー、どうすんの?教えて!」
 ばかげてる、と冷静なオレは思った。だが口と体が勝手に動いている。
 「ここじゃ実感ないからな。あそこ行くぞ、電車」
 「電車のとこまで行くの?なつかしー!なんか久しぶりだね」
 「よし、行くぞ」
 「行くサー!」

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