<4話-1>

翌朝。智紀が登校して教室にいると朝練から戻った桃奈が入って来た。あんなことがあったから欠席でもするのかと思ったが、
そうしないのは桃奈だからか。自分なら絶対休むだろう。もっともあれを知っているのは智紀と瑠夏だけだし、問題ないといえば
そうなのだが。
桃奈はいつもと変わらず友達とはしゃいでいた。女は強いのかなぁと桃奈と目が合うと、一瞬ハッとして目を逸らされてしまった。
さすがにこちらも恥ずかくて智紀も目を伏せたのだけれど、当然桃奈が一番傷ついているのだ。今は普段通りにしているのがベストだろう。
昼休み、智紀が廊下を歩いていたら後ろから呼び止められた。桃奈だった。
「智紀くん、ちょっと・・・」
「あ、うん・・・なに?」桃奈はちょっと顔を横にして言った。
「昨日はゴメン。智紀くんは巻き込まれただけなのに・・・」
「ああ、いいよもう。高斎だって被害者なんだし」
あの後、智紀が顔を洗い終わる頃には桃奈も少し落ち着いていたが、一言も喋らずに出て行ったのだ。勿論好きでもない男にあんなこと
されては仕方ないだろう。言葉通り桃奈には怒っていないし、むしろ同情している。
それとあの感触。思い出して智紀はまた股間に疼きを覚えた。桃奈の気持ちを考えたら不謹慎なのだが、こればかりは抑えられない。
「あと・・・ありがとう。助けてくれて」
「うん」
「それだけ言いたかったの」
「わざわざ言わなくてもいいのに」「けじめだよ、けじめ」
「高斎らしい」そういって智紀と桃奈はようやく笑った。
「これからも、今まで通りで・・・大丈夫だよね?」
「勿論。高斎がよければ僕も今までと同じで」
「よかった」桃奈は智紀に向いて微笑む。いつもの桃奈が戻ってきた気がした。
「あ、それからその呼び方、そろそろ変えてよ」
「?」
「今友達に呼ばれてるのは『モモ』か『モモちゃん』の2パターンがありますがお客様はどちらにしますか?」
「2択かよ!」
「モモちゃん、がおすすめですけど」「じゃぁ・・・モモで」
「なんか鶏肉選ぶみたいな言い方だなぁ。まぁいいか。じゃあわたしも智紀、って呼ぶね」
「いいよ。あっ、モモ・・・その他の呼び方されてたなぁ〜たしか・・・桃奈だから・・・モナー」
「その呼び方は嫌いなの」腕を組んで怒る仕草が智紀には嬉しい。やはり桃奈は元気な方が似合っている。
「似合ってるよ」意味を知らずに桃奈は「冗談!あの猫みたいなのに似てるって?」まるっきりかみ合ってない会話に智紀は吹き出した。
「そうかもなー」
「うわっ、智紀さむっ!」
しかし放課後が近づくにつれて智紀の気分は重くなっていった。今日は部活の日なのだ。
休んでも構わないかと思ったが、それだと瑠夏から逃げることになる。それまで智紀は逃げてもいいと思っていたのだが、昨日の一件で考え
を変えた。今のままだとあのような事がずっと続くと思う。おそらく瑠夏が飽きるまで延々と続くだろう。逃げるだけでは今後何も解決しない
のだ。だが上手く瑠夏に取り入れば写真を破棄出来るチャンスがあるかもしれない。
またこれは智紀だけの問題ではないのだ。桃奈も救う為になんとかしなければならない。いや、救いたいと智紀は思っていた。
部室には他の部員と一緒に瑠夏もいた。しかし部室での瑠夏はまったく普通に、あの日の前と同様に先輩・後輩の関係で接していた。
表と裏の顔というのか、智紀はいまさらながら瑠夏の変身ぶりに呆れるというか感心した。
何事もなくいつも通り部活の打ち合わせが終わり、あとは雑談タイムになった。智紀は何もないうちに帰ろうと支度を始めた。
するとさりげなく瑠夏が側に寄ってきた。
「帰り?」「はい。用は済みましたから」
「これ去年の学園祭会計報告書。参考にして」と、コピー用紙を綴ったものを智紀に渡す。
「ちゃんと中を読んでね。間違えると後が大変なことになるから」受け取った綴りの中に手書きのメモがあった。話があるなら電話でいいのに、
まるで昔のスパイ映画だ、と智紀は心の中で苦笑しつつ「わかりました」と、バッグに仕舞った。こういう秘密めいたものも、瑠夏なりに楽しん
でいるのだろう。
家に戻ると智紀は気になっていたメモを読んだ。なるほど、こういうことか、と智紀はため息をついた。
土曜日。学校が休みで楽しい週末のはずが今はすっかりブルーな気分になっていた。
智紀は瑠夏が渡した秘密のメモの指示通り、通学沿線の駅に降りていた。瑠夏の家の駅とは違うが、それは今日行われるのがこの近所に
あるからだ。
時間通り駅を出て待っていると、後から瑠夏が階段を下りてくるのが見えた。その後ろには桃奈もいた。大きなスポーツバッグを肩にかけていた
が、中身はスポーツとは全く関係ないものだった。
「おまたせ〜。荷物多くて手間取っちゃった。いろいろ選んでたからね」
「それ、持つよ」
「ううん、大丈夫。見た目より重くないから」
「あれ?桃には優しいじゃん、智紀くん」
「そんなことないですよ。先輩のバッグ持ちましょうか?」
「なーんか、とってつけたようだけど、ありがと。でもいいよ。すぐ近くだし。じゃあ行こうか」
瑠夏に続いて10分ほど歩くと、古びたマンションの前で立ち止まる。
「ここが今日の場所。結構近くていいでしょ。エレベーター止まってるから階段なんだけどね」
そう言って瑠夏は鍵を取り出して正面玄関のガラスドアを開いた。
「ここ、人住んでないんですか?」
「言わなかったっけ?ここネットで知り合ったお姉さんのウチのマンションなんだけど、古くなったから取り壊すんだって。でもアスベストの検査
とかいろいろあって解体延期になっててね、その間スタジオとして仲のいい人に貸してくれてるの。スタジオ借りるっていったら結構高いけど、
お姉さんと友達だから勿論タダ。でもわたしもお姉さんの服作るの手伝ったりしてるし、甘えっぱなしじゃないんだよ」
「お姉さんって、コスプレ仲間ですか」
「そう。あとここはプライベートな少人数専用ってことになってるの。今日は他に来る人いないし、思いっきり撮れるわ」
「思いっきりって?」
「うん、キワドイのとかね」と、瑠夏はニンマリと笑った。
スタジオとして使っているのは3階の一室だった。居間には椅子やテーブルは残っているが、他の部屋は家具もなく本当にガランとしていた。
「この部屋には電気きてるから安心して」瑠夏はまっさきに電気ストーブのスイッチを入れる。
「いいところでしょ。冷蔵庫もあるし、寝室にはベッドも残ってるからいざとなれば泊まれるよ。まぁ、その時はお姉さんに断っておかないと
いけないけど」
智紀がアチコチ部屋を見て回っていると、瑠夏が肩を掴んで引き戻す。
「さぁ、時間ないんだから。一応5時までに撮り終わるってお姉さんに言ってきたし、いろいろ撮りたいから。桃〜!」
「これ、智紀の」
「着る服?」渡された袋を覗くと色とりどりの衣装が入っていた。
「桃はわかるけど、智紀くんはサッパリわからないでしょ、どれがどのキャラのか。わたしが選ぶから待って。えーと、まずはこれからね」
こうして智紀の初めてのコスプレ撮影会が始まった。

「いいよ〜その表情最高!」
相変わらず撮影になるとハイテンションな瑠夏であったが、智紀も前回にくらべると随分撮られるのも苦にならなかった。
もっとも今回は裸ではなかったし、桃奈も一緒にいたから気が安まっているからだろう。
撮影は最初にメイド服、そして何かアニメに出てくる女子高生の制服で撮った。ポーズも特に不自然でなく、普通に撮っていたのが意外であった。
ヌードでも撮るのかと思っていたが、ヌードではせっかくのコスプレが写らないだろから、今回はそれはないだろう。油断は出来ないが。
「いいねぇ、智紀くん絶対フューリィー似合うって思ってたんだ。正解!」
智紀はカツラをかぶり、ゲームに出てくるようなコスチュームを着ていた。ここまでならば日常とかけはなれているから単に女装するよりも
恥ずかしくない。むしろ面白かった。そしてこれも瑠夏が自分で作ったというのだから驚きである。元々似たサイズで以前作っていたのを智紀に合う
ように手直ししたと言っていたが、サイズもピッタリで裁縫もしっかりしている。才能なんだなぁ、と素直に感心した。
「それがキャラクターの名前なんですね。アニメですか?」
「え〜知らないの?『MOD』を。『ミシェル オーバードライブ』っていうゲームだよ。今度MAX-BOXに移植されるし」
「そうだったんですか。僕あんまりテレビゲームしないし」
「違う違う、これエロゲー。恋愛格闘シュミレーションゲーム」「はぁ・・・」この会話の間も瑠夏はメモリーカードを交換している。
もう100枚以上は撮っているはずだ。
「よし、準備オーケー。じゃぁ次はファイティングポーズでいくよ〜」
桃奈と智紀の撮影は交互にだったり一緒に写る時もあった。『MOD』のコスは智紀が最初に着替えていたが、ようやく桃奈も『MOD』のキャラ
で出てきた。
「おっ、桃もいいじゃん!」智紀も振り返って見た。

桃奈の着ているのはコスチュームというか水着のような露出度だった。智紀は思わずジッとみてしまった。
「似合ってるでしょ〜マコシャークの通常モード」
「ええ」
「もう。あんまり見るなよ、エッチなんだから智紀は」
「あ・・・ゴメン」
瑠夏は頷くと智紀の頭を軽く叩く。「智紀くんは女の子なんだからいいの。桃も気にしない〜さて、撮るか!」
智紀はモデルを代わったがそれでもライティングやレフ板持ちなど、結構いろいろと仕事を頼まれていた。こういう機材はここの持ち主『お姉さん』
が持ち込んだそうだ。思ったより本格的で正直驚いていた。瑠夏のカメラは一眼デジカメでこそないが、割と高額な機種を使っている。
「コスプレ撮影っていつもこんな感じなんですか?」
「う〜ん、こういうのはあんまりないね。大体よく知らないカメコにウチの大事なモデル撮らせるわけないし」
「専属モデルみたいなこと言わないでよ」
「でも桃、イベント行ってくれないじゃない」
「だって別に好きじゃないしー」
「はいはい。じゃ次撮るよ〜」
カメラを向けられると桃奈がポーズをとる。この辺のタイミングは息が合っている。あんなことがあったのが嘘のようだ。やっぱり二人に騙されて
いるのかな、と智紀はふと思う。
撮られているときの桃奈は瞬間キャラが乗り移ったかのように表情が変わる。このゲームは知らなかったが、気の強いファイターキャラがそこに現れ
るのだ。瑠夏の表裏の変化といい、キャラクターが変わるところも姉妹で似ている。
それにしても桃奈はいい体をしていた。姉と違って胸は大きく、スポーツをしているので体が引き締まっている。どうしても胸元に目がいってしまい
智紀はそれを悟られないかとドキドキしている。しかしこんな挑発的なコスチュームでエッチな気持にならない方がどうかしているのだ。
と、頭の中では開き直りながら、やはり直視出来ない智紀だった。
「オーケー。ちょっと休憩」そう言って瑠夏は猛烈に撮りまくった画像を持ってきたノートパソコンに落とす。
時計を見ると3時。意外と時間が経つのが早い。
「もう時間少ないね。このあと、二人の絡みでいくから」
「絡み、って?」
その問いを待っていたかのように瑠夏は人差し指を伸ばして笑った。智紀はイヤな予感がした。
「簡単なこと。二人にゲームをしてもらいます」
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