<2話-1>


『よぉ、どうしたの。ぼーっとしちゃって』
教室で智紀が外を眺めていたら、頭を軽く叩かれた。振り向くと高斎桃奈(ももな)が腕組みをして笑っていた。
『ああ、なんでもない』
 とはいってみたものの、桃奈と顔を合わせると瑠夏を思い出してしまって、智紀は顔が火照る。
それを見せまいとして顔を伏せた。

 桃奈は瑠夏の妹で、智紀の同級生だ。瑠夏は落ち着いた雰囲気があるのだが、妹の桃奈は対照的に
元気が放出しているタイプで、クラスでしょっちゅう声が聞こえている。ちょっとおせっかいな所も
あるのだが、それもパワーのおすそわけというか、世話好きな性格で智紀は嫌いじゃなかった。
 男女構わずうち解けるところは羨ましくもあるし、実際男子の中でも桃奈は人気があった。
しかし恋愛話に発展した、と聞かないのはやはりそのパワーに押されてしまうからなのだろうか。

『なんでもないことないみたいだよ』桃奈は正面に回ってきた。
智紀の目の前に桃奈のむちっとしたふとももがアップになり、それから逸らした視線は結局桃奈の顔を見上げることになった。


『ちょっと寝不足なだけだって。昨日遅くまで星観てたから』
『ああ、そうか。火星が大きく見えるんだよね。お姉ちゃんは全然観てないから気づかなかった』
『よく知ってるなぁ』
『うん、新聞で読んだし。部活終わった後に見えるのがそうだよね』
『いや、そう言われてもわからんのですが・・・まぁ大きくてオレンジっぽいんだけど』
『ああ、それそれ。そんな感じのやつ』

 桃奈はこれもまた瑠夏とは正反対にバスケット部に入っていて結構活躍しているそうだ。帰りも遅くなるのだろう。
『そうそう。お姉ちゃんに伝言頼まれたんだ』
『副部長に?』
『部誌の打ち合わせがあるから帰りにウチに寄ってだって』
『副部長の家に?』
『わたしんちでもあるんだけどね。場所知ってる?』
『いや。知らない』
『そうか。じゃぁ地図書くよ。紙ある?』
智紀が机から適当にプリントを出して裏にしてシャーペンを差し出した。桃奈は椅子に座り直して地図を書く。
近づくと瑠夏とは違った感じの良い匂いがした。

『はい、説明を聞く!』『あぁ、うん』地図の説明をし終えてにこりと笑う。
『迷ったらここに電話すればいいから』
『ありがとう』『あ、それと』
『?』
『帰り遅くしてあげるから。邪魔しちゃ悪いし』と、言ってクックッと含み笑いをする。
『あ、あのなぁ、そういうんじゃないって』反論しようとしながら智紀は顔が赤くなるのがわかる。
『なに赤くなって〜冗談だって』頭をポンッと叩かれた。
 桃奈は部員に呼ばれて返事をした。
『じゃ、行くから。ごゆっくり〜』『なんか引っかかるな』
『あと、わたしの部屋覗くなよ』
『見ねーよ、そんなとこ!』
『ひでー!仮にも乙女の巣を<そんなとこ>とは!』
『<巣>なのかよ!』桃奈は手を振って笑いながら廊下を走っていった。
 智紀はため息をつきながら、期待と不安に改めて一度深く息をはいた。

 高斎家は智紀の降りる駅の2つ先にあった。駅からは徒歩10分とのことで住宅街をくねくねと
入ったところにある一戸建てだった。
 玄関の呼び鈴を鳴らすとドアが開いて瑠夏が微笑んでいた。
『いらっしゃい』
『こんにちは』瑠夏は私服を着ていつもと違って新鮮だった。
『上がって』
『はい。お邪魔します』
靴を脱ぎ、智紀は瑠夏の後に続く。
『桃からなにか言われた?』
『ええ、まぁ。帰りは遅くなるからゆっくりしていいって』
『ふふふっ。安心して。別にあのことは話してないから。単にからかわれただけよ』
『そうですか。安心しました』『面白いね、智紀くん』
そう笑いながら二階へ上がる。
『ここがわたしの部屋』瑠夏の部屋に入る。智紀は女の子の部屋に入るのは初めてだったから、それ
だけでドキドキしていたが・・・
『お邪魔します』


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