<2005.11.1>

「ふしだらにもほどがある」- 第一話


 智紀(トモキ)は窓の外を眺めながら大きく伸びをした。部室に使っている第二化学室は『元』化学室であり、生徒数の
減少と共に事実上、智紀のいる天文部の専用部室となっていた。4階からみえる景色はもうすっかり早くなった
夕日と、ポツポツ灯り始めた町の明かり。

 先週終えた学園祭の報告で委員会に出ていたのだが案の定部員はみんな帰っていた。特に待っていろとは言わ
なかったけどさ・・・
 『普通部長か副部長だろが』と独り言で文句を言ってみる。まだ一年なのになんで学園祭実行委員会の打ち合
わせに出るんだよ!と思いながら。

 天文部は智紀の他に一年生が3人、二年生が6人、三年生が4人だったが三年生は事実上引退なので、実際部活を
引っ張るのは副部長なのだ。しかし副部長はクラスの演劇で主演になってしまい、結局一番やる気がありそう、
ってことで智紀が部活の展示担当責任者を任されてしまったのだ。なにがやる気だ、と思ったが一年も二年も
智紀ほど天体に詳しくなかったし、結局流れでそうなってしまった。
 ともかく学園祭は無事に終え、打ち上げもやったし今日の委員会で学園祭の後始末も終了である。

 プリントを部のファイルに挟んでから帰ろうとしたとき、廊下をキュッキュッと鳴らして誰かが来た。
 部員が忘れ物でも取りに戻ったのかと思ったらドアが開く。
『あ、智紀くん』
『副部長』



 長い髪をしなやかに流し、副部長の高斎瑠夏(コウザイ ルカ)が手を振って微笑む。

『もしかして委員会?』『はい。これでやっと終わりましたよ』
『おつかれさま。智紀くんには悪いことしちゃったね』
『いえ、そんなことないですよ』
『クラスの方断ればよかったんだけど押し切られちゃって』
『劇観ましたよ。よかったです』『観てくれたんだ〜!うわっ恥ずかしい』
瑠夏は顔を隠すマネをしてニコニコ笑う。智紀もつられて笑顔になった。

 瑠夏はきれいな顔立ちで、性格も明るかったので男子・女子とも両方に人気があった。クラスの劇で主演に選
ばれたのも当然といえよう。智紀は自分が部活の責任者にさせられたのは正直面倒とは思ったが、結局瑠夏の頼み
とあっては断れなかったのも確かで・・・
 『打ち上げも途中までしかいられなかったし、ゴメンね』
『仕方ないですよ、クラスのと重なっちゃってたんだし』
『なんか今回は智紀くんに苦労させちゃって』『いいんですって、もう』
 目の前に立たれると、部活の時に会っているというのに智紀は緊張してしまう。好きなのかといえばそうなの
だが、あまりに自分とは遠いところにいるので恋愛とかそういう感情ではない気もする。憧れのお姉さんというの
が一番近いかもしれない。もっともありえないが、瑠夏に告白されたら当然つき合うつもりだ。それはそれ。

 『ちょっと待ってて。いいでしょ時間』ちょっと上目遣いになって瑠夏。
『別に構わないですけど』可愛いじゃん、と平静を装いつつ智紀は頷く。
『じゃ3分!』といって瑠夏は走って出ていった。髪を振って走る後ろ姿もまた絵になるところはさすが憧れの人と
いったところか。

 きっちり3分で戻ってきた瑠夏は息を切らせつつ両手は後ろに『右か左か』『え?』『どっち?』『えーと
右で・・・』『はい、コーヒー牛乳』瑠夏はそういって智紀に紙パックのコーヒー牛乳を手渡した。
『高斎先輩、これ』
『とりあえずおつかれさま。ささやかな気持ち』
『いいんですか、もらっちゃて』
『もう、このくらいで恐縮しない!ガッといって』
『ありがとうございます。じゃ、ゴチになります』
『うすっ』と瑠夏は両手を前に空手家風に。
『あ、いちごでしたか』『うん。そっちがよかったでしょ』ニコッとまた微笑む。

 智紀と瑠夏は窓際に寄って沈む夕日を眺めていた。五線譜のような高架線に熟した黄身が落ち、トロリと滑らか
な丸みをビルの間に滑り込ませてゆく。智紀は瑠夏のいい香りを嗅いで、なんとなく幸せな時を感じた。
いいよなぁ〜と。疑似恋人というのか、そんなことを思い描きながら、隣にはオレンジに染まった瑠夏の艶やかな髪。
 しかしズズッと、現実に引き戻す音。おしまいか、ストローを吸いきって智紀は側にあった長机に腰掛けた。
瑠夏がストローを吸ったまま振り返る。キュッと床を鳴らし、半回転。髪がきれいに流れる。そして瑠夏はまっす
ぐに智紀を見つめた。一瞬にして緊張が戻る。
 もしかしてコクる?と高速に頭の中で妄想が駆けめぐる。

『智紀くん、おつかれさまってことでセックスしようか?』
『・・・・・・・えっ?』思考停止。
『何度も言わせようと思って、もう。セックスしましょう』
 とまどいつつも、一番納得出来る理由を考え、智紀は辛うじて言った。

『・・・・先輩、いや、ヤですよ。からかわないでくださいって。そういうバブル時代に流行ったドラマみたいなセリフ
言われても笑いとれませんって、ハハハ。それに先輩のキャラじゃないですよ』
『ん?わたしじゃダメってこと?』
『ダメっていうか、先輩らしくないっていうか・・・。先輩はそんなこと言っちゃダメです』
『ん〜そうかぁ。じゃぁわたしがイヤってこととは違うの?』
近づいた瑠夏の口から甘い苺風味が漂う。智紀はそれで動悸が激しくなった。

『先輩はイヤじゃないですよ。っていうかむしろ・・・』その先はさすがに言えなかったが、瑠夏は察して笑顔になった。
『よかった。意外と智紀くんってカタイんだね』
『先輩はこれからも冗談でそんなこと言わないでくださいよ。本気にするヤツもいますから』
『うん。そうするよ。冗談じゃ言わない』
『ええ。自分を大切にしてください』
『そういうところがカタイんだけどね、智紀くんは。こっちもカタイけど』
と、いきなり瑠夏の手が智紀の股間に触れた。
『うわっ!なにすんですか!』『ビックリした?』
『って、やめてくださいよ。そんな身体張ったオヤジギャグ言って』
瑠夏は身体を曲げて笑い出し、智紀はあまりにイメージと違う瑠夏に戸惑っていた。
『ハハハ、ゴメン・・・今のリアクション受けました、フフっ』
『いい加減にしてくださいよ。もう帰るから鍵締めます』
『ハハッ・・・笑ってゴメンね。からかったんじゃないの』
『どういうことです?』
『うん』と、瑠夏は両手を広げ、智紀を抱くようにして、長机の上に押し倒した。

『先輩、ふざけるのは・・・』
『冗談かと思った?』
仰向けになった智紀を見下ろした瑠夏の表情は急に大人っぽくなって見え、智紀は声が出なかった。
『いいよ。じゃあ本気だっていうこと、みせてあげる』

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