ドラマや映画ならここでハッピーエンドということになるんだろうが、そうそう綺麗に収まらないのが現実というものだ。
あの後ちょっと話してお互い幸せな気分になっていたんだが、携帯の番号を聞こうとしたらなんと涼葉は持っていないという。
珍しいというか、涼葉らしいと思ってしまったのだが、そんなところからも涼葉との今後がちょっと不安だった。
 まぁ俺の番号と涼葉の自宅の番号という番号交換はあったんだが、さすがに涼葉の自宅に電話する勇気はまだないんでこれは
ホントの緊急用だろう。
 ともかく夕日が出る頃別れてお互いの家に帰り、そして翌日になった。


 「今日も一緒に帰れるか?」廊下で涼葉を呼び止めて俺は言った。
 教室で話すのはどうかと訊いたら別に構わないと言われたんだが、なんか『出来るならやめて』波が感じられたんで俺なりに
配慮してのこと。

「すまない。今日は生徒会なんだ」「遅いのか?」
「ああ、もうじき中間テストがあるからスケジュールが厳しい」
「そうか・・・なにげにイヤなことも思い出させるな」
「テスト、高さんは苦手なのか?」「なのか?じゃねーよ」
 クスッと涼葉が笑う。
「苦手なところがあったら教えてもいいが」
「そりゃ助かるわ。苦手っていったら全部だけどな」
 一応現国と世界史は得意な方なんだが、一緒に勉強するっていうのも楽しそうだ、と俺はちょっとだけ浮かれる。
「全部か。わかった。準備しておこう」
「え、マジで?」涼葉は頷く。
「助かるよ。これで中間は楽勝だな」「上手くいったら6月の実力テストも勉強会を開こうか」
「・・・ってまたイヤな事を思い出させるし」
ともかく、こうやって話していれば大丈夫だよな、と俺はぼんやりと思った。

 俺がそんな風にぼんやりしていたら、涼葉はその後週末土曜も学校でみっちりと生徒会の仕事をしていたそうだ。
日曜は俺の方も家の法事で出かけなきゃいけないハメになって、つきあい始めの週はなんとも実感もなく過ぎてしまっ
た。普通の恋人同士ならメールとか電話で深め合う所なんだろうけどな。



 憂鬱だった週明けが、少し楽しみになるなんて今まで考えたことがあっただろうか?
 そんなハッピーな月曜日を迎えた俺だったが、同時にテスト一週間前という現実にも直面したわけだ。
 しかし今回はそれも楽しみである。これで涼葉と話し合えて、もっとキスなんかして成績も上がれば最高なんだろう。そうそ
う上手くはいかないと思うがささやかな希望はある。

 
「高さん、高さん。ちょっと」
 昼休み、教室でお互い顔を合わせて廊下に。
 涼葉がなんか嬉しそうに手招きして俺を呼び寄せる。

「一緒に昼食をとらないか」「ああいいけど、涼は学食だっけ?」
「今日はお弁当を持ってきた。高さんはパンを購入したんだろう?」
「そうか。なら外で食うか。あそこで」
「うん。天気も良いし、賛成だ」

 俺達はまた教室に戻っていそいそと例の池の側に行った。ここは人通りも少ないし、いい具合にベンチもあるので絶好の弁当
スポットだと俺は再認識。
 俺がパンを食べ始めると、涼葉も弁当箱を2つ取り出した。
「結構食うんだな」
「ああ、脳を活動させているとこのくらい必要だ」「だよな〜秀才は違うぜ。俺はこれで充分だけど」
と涼葉はひとつ差し出した。
「これ高さんの分だ。気づいてくれるかと思ったが」
「わかってるよ。サンキュー」
「高さんも人が悪い」
「涼の性格に似てきたかも」
そういうと涼葉はムッとした顔で弁当箱を取り戻そうとする。
「ゴメン!冗談だって。これ涼が作ったのか?」
「・・・そうだ」涼葉は弁当を今度は俺に戻した。
 蓋を開くとコロッケとサラダに炒め物。
「美味そうだな」
「食べて・・・みればいい。嫌いな物があれば無理しなくていいんだが・・・」「別にねーよ。いただきますー」

 涼葉の弁当は美味かった。涼葉は自分の弁当には手をつけず、俺の反応を自信なさげにチラチラみていたがそんな姿が俺には
楽しかった。俺の為に弁当を作ってくれたことは勿論だが、涼葉の意外に家庭的な面は俺の中でポイントを上げた。
「涼、料理上手いじゃん」
「いや、コロッケは冷凍だし、まったく手間掛かっていないんだが」「謙遜すんなって」
「不味くなかったか?」「不味きゃ食わないよ。美味かった」
 俺は空になった弁当箱を涼葉に見せる。涼葉はそれでようやく笑顔になった。
 「涼も食えよ」「あ、そうだな。すっかり忘れていた」
 俺は持ってきたパンを涼葉は俺が食べた弁当と同じものを食べた。なんかいいよな、これって。

「すまないと思って」「ん?」
「このところ忙しくて高さんとは話も出来なかっただろう」
「ま、仕方ねーんじゃ・・」
「いや、これではいけないと思ったんだ。それで私なりにどうしたらいいかと・・・」
「で、弁当か」
「こういう類型的というかベタというか、そういうの高さんは嫌いじゃないかと思って昨日は悩んでいたのだが」
「昨日一日、弁当の事で悩んでいたのかよ?」
「ああ、そうだ。悩んだ割には結果がその程度というのはご愛敬で願いたい」
 涼葉が笑う。俺の為にそんなに悩んで弁当を作ったのかと思うと、涼葉がすごく愛おしく見えてきた。俺は自然に肩を抱き、
頬にキスをした。
「高さん、ここ学校・・・・」
「気にすんなよ。嬉しいから、俺は」
「・・・喜んでくれて良かった」
 涼葉の体から力が抜けて微笑み。
「また作ってきていいか」「勿論。ただあんまり無理すんなよ」
「無理じゃないさ。高さんが喜んでくれるなら」
「うん。サンキューな」俺はもう一度キスをした。

 俺達はまた食事に戻った。食べ終わり、ペットボトルで茶とか飲みながら俺は訊いた。
「そういえば涼の誕生日っていつ?」「私の?12月15日だ。高さんは?」
「俺は7月6日。俺の方が先輩だな」
「急に先輩顔されても困るが」「しないってーの!」
 ともかくまだ先でよかった。これで涼葉に何かプレゼント出来る。誰かに贈り物をあげるなんて何年ぶりだろうか。そんなこ
とで心が躍るなんて。

 涼葉は紙を取り出して俺に渡す。
「ところで高さん、これが今日からの勉強会のスケジュールだ」
「ああ、さすがだな」
 いきなり現実に。ちょっとは幸せに浸らせてくれよ。俺の願いも知らずにいつもの涼葉らしい顔に戻る。ザッと見るとテスト
までの勉強メニューが細かく書かれていた。

「途中抜けているのは私の塾が週2回あるからで、その日は勘弁して欲しい」
「わかってるよ」
「その代わり宿題は用意するつもりだ」「うわっ、本格的だな、そりゃ」
「当たり前だ。高さんから頼まれたのだから」
「まぁそうだけどな。で、どこでやるんだ?図書室は混んでそうだし」
「ウチに来るといい」「ウチって涼の家か?」
「ああ、あいにく別宅はないので私の今住んでいる家だ」
 いきなり家にお呼ばれか。勉強だけだしまったく疚しいこともないのだが、涼葉の親と顔を合わせる心の準備というものが・・・
「ダメなのか?」
「あ、いや、行っていいのかよ?」
「無論だ。それとも高さんの家に私が行った方が・・・」「あー!それは止めといた方がいいから!」
「不都合でも?」
「あ、いや、ウチの親とかそういうの面白がってくるから」
 そうだろう。ウチに彼女を連れてきたらきっと家中の話題になるのは決定だ。特に妹はあれこれ聞きだそうとするに違いない。
あれはしつこくてムカつく。
「あー、とにかくわかった。今日からだな。よろしく頼む」
「承知した」


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