涼葉が怒ってないとわかったので、俺は気も口も軽くなった。勢いだったがキスの感想なんか普通言わないよな。
少しは自重しないと。

「それは嬉しいよ」
 涼葉は少し俯くと、にこりと微笑んだ。涼葉の不意に見せるこういう表情は反則だと思う。
「ちょっと休むか」と俺はにやけそうな顔を横に向けて、土手がコンクリートブロックになっている所で立ち止まる。
「そうだね」
 涼葉も同意して、先に斜面を下りていった。カバンを下ろすと、涼葉は中から紙を出してそれを敷いてから座った。
俺は自転車のスタンドを立てて涼葉の隣まで下りてゆく。
「使う?」紙を差し出す。
「いいよ、俺は」と俺は直に座る。
「でもこういうところが涼らしい、って感じだな」「私らしい?」
「そう、キッチリしている、優等生っぽいところ」「そうでもないよ」
と、俺に差し出した紙を裏返して見せた。テストの解答用紙だった。
「なるほどな。でもその点数、やっぱり優等生だろ」俺は92点の古典のテスト指でをはじいた。
「イヤミだったか」「ああ、十分な」俺達は笑った。

 涼葉はテストをカバンに仕舞うと、俺の方をジッと見つめる。
「さっき言ってしまったけど、今日は昨日のことを私も詫びたかったから高さんを呼び出したんだ」
「お互い謝ろうとしてたっていうのも可笑しいな。意外と気が合ってたりして、俺達」
 俺は笑って流すつもりだったが、その言葉に涼葉は身を乗り出してきた。
「そう思うか高さんも!」
「えっ?」
「私も最初に会ったときからなんとなく気が合う予感がしていたんだ」
 涼葉のリアクションに俺は少し戸惑った。確かに似ている所はあるかも、と思ったが現実をみたら、こんな優等生と
俺の気が合うって、ありえるか?住む世界が違うだろう。
 でも俺の思いとは別に涼葉は嬉しそうに微笑んでいた。
「なるほどこういうところも気が合うというのだろうな」
 そこまで言われては違うとも言い出せず、俺は頷いてごまかした。まぁ成績はともかく、性格的には似ているってこと
もあるからな。

「よかったよ、高さんで」
 涼葉が遠くを向いて話す。
「何が?」
「初めてのキスが高さんでよかった」
 小さく言った涼葉の頬が赤い。俺もそんな風に言われて照れた。
「おう、俺でよければいつでも相手してやるよ」
 ノリというか雰囲気というか俺の口からまたそんな言葉が出た。言い過ぎだったか?
すると涼葉はこっちを向いていきなり俺の頬にキスをした。
「ありがとう高さん」
「涼・・・」涼葉には驚かされっぱなしだ。

「正直こんなこと言って引かれるんじゃないかと心配していた。女っぽくないし、私の相手をすると疲れるのではないか
と思う。無理につき合わせて貰っているのではないかと」
「いや、そんなことねーよ。涼は面白いし」
「私が面白いのか?」
「あー、いや悪い意味じゃないからな」
「わかってる。そうか」
「それと・・・」「?」
「可愛いと思うぜ、俺としては」
 そう言って今度は自分のセリフに俺は照れた。何言ってんだよ、俺はこんなキャラじゃないはずなのに・・・
 涼葉は膝に顔を伏せた。
「あ、その・・・・」
「ありがとう・・・」
 涼葉がこたえた。
「そんな風に言われたのは初めてだ」
「えーと、まぁ、なんつーか、近寄りにくいから言われなかったんじゃねぇのかな。話してみたら多分他の男もそう思うって」
「そういう話を高さんから聞いたら勘違いしてしまいそうだ」涼葉は顔を上げる。
「涼は自信もっていいんだぜ」「自信を?」
「ああ、俺だって興味ない誰にでもキスするほど飢えちゃいねーって話だ」
 言ってはみたが、なにげにこれ告白っぽくないか?
 涼葉は再び遠くをみつめる。風が吹いて草をサラサラと鳴らす。

「高さんのキスが好きだ」「・・・」
「高さんの心の優しさを感じるキスだ」
 最初のあのキスのことか。
「あんなキスがまた出来たらと思う。私はそう願うんだ。だから高さん」涼葉が俺の顔に向く。
「高さんさえよかったら私と・・・」
 俺は遮る。これは俺の言葉だ。カッコつけさせろ。そんな気分。
「涼、わかった。いつでもキスしよう。俺もそうしたいから。俺とつき合ってくれ」

 涼は言葉の代わりに唇で答えを出した。




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