<そういえば津木、 >と書くのと同時に津木は罫線の上にトメハネのあるスッキリした字で『涼葉』と書く。
<名前の方が書きやすいから。『涼』か『スズ』でいい>なるほどな。
俺は頷いて<涼、家は近いのか?>と続けた。

 涼葉の家は学校からバスで駅まで、そこから3駅目だそうだ。ウチの学校の生徒では遠い所から来ている方だろう。しかし
涼葉が言うには学校の帰りに駅前の塾に寄るから、却って楽なのだという。頭良いのにそれ以上勉強して将来何になるつもり
なんだ?生徒会に入っているし、政治に興味があるとか?っていうか官僚の方か?
どちらにしても俺には関係のない世界だがな。

<まだ決めてない>涼葉は正直に答えた。
<勉強は目的の為にするんだと思うけど、わたしにはまだ見つからないからとりあえず勉強しているだけ>
とりあえず、であの成績とはどういうことなのかね・・・
 そして3ページ目。

<涼、たまには息抜きした方がいいんじゃないか> <してるよ。本読んだりとか> <漫画とか?最近何読んだ?>
<『フーリエ解析と偏微分方程式』> <それ息抜きじゃNEEE! おまえ・いつか・押し倒す!>
<いいよ>
さらりとペンが踊る。俺は涼葉の顔を覗く。

ペンはノートの上をトントンと叩き<この上なら好きにしていいから>と続けて口元をつり上げた。
<マジで?> <別に文字だけだし。それに興味ある。高さんがどうするのか> <エロいこと書くけどいいのかよ>
<そうじゃないと面白くないよ>と書いて<お互いに>と結ぶ。
また『興味』か。実はこいつの行動の源は好奇心なのかもしれない。

 涼葉は余裕でペンなど廻しながら俺の返事を待っているようだ。据え膳食わぬは・・・というわけじゃないが俺だってやる
ときはやる。このままのノリで涼葉との紙上エッチになだれ込んでどうなるのか予想出来ないけど、面白くなりそうなことは
確かだしな。

<オーケー。やってみよう>涼葉のペンが素早く動く。
<どんな設定で?> 設定かよ。まぁ想像上のもんだから、どこだっていいんだがさて、どうするか・・・俺は額でノック
して書いた。
<場所はここでっていうのは?> <家のベッドとかじゃなくて?> <ムードないか> <いや、それでいこう>
涼葉のペンが走る。
<さぁ、始めよう>

 って書かれてもどうしたものか、俺は考えてしまった。こういうのは経験者なら簡単なんだろうが、誰かとつき合った事の
ない俺にはそういった過去の蓄積がない。せいぜい映画やドラマからそれっぽいシチュエーションを探るのが精一杯だ。いや、
ナメてたが、これ頭使うじゃないか・・・・
 ペンが止まった俺を待っていた涼葉だったが、悩んでいるのがわかったのかペンを動かす。

<大丈夫、軽くいこうよ> <ああ、でもどうやったらいいか> <じゃあ私がしばらくリードしようか>
涼葉はそう書いてアイコンタクト。俺は頷く。

トントンとシャーペンを叩いて涼葉が始めた。
 <高さん、キスしようか>いきなりそうきたか!当然<うん>と返事。
すると涼葉はノートの上の余白に丸を書いた。そしてこっちをチラと見てから、次にその線上に重なるようにゆっくりと丸を書いた。



これがキスってことなのか・・・俺は涼葉と同じように丸を書いた。すると涼葉のペンが俺の線の上に到達し、しばらくなぞって
からまた円を描いた。ゆっくりと。
<今度は高さんから・・・>
涼葉は円を描く。線が結ばれると俺は涼がやったように線を重ねてみた。
 単に線を描いているだけで、それだけなら少しもおかしい所はないのだが、こういうシチュエーションだと、妙にエロく感じた。
俺がペンを離すと充分余韻をもって涼葉がペンを乗せる。

<高さん、触っていいか>
思わず吹き出しそうになる。
<随分大胆だな> <止める?> <いや、触ってください>今度は涼葉が笑いをこらえていた。
<では、ここに>余白を軽く囲む。何か書けってことだな。え〜と・・・俺はとりあえず下半身っぽい線を書いた。さすがに
いきなりアレを描くのはためらったし。
<上からしよう>俺の描いた線の上、股間の辺りを涼葉のシャーペンが撫でるように軽く動く。
じっと見ていると序々に黒くなってくる。それと共に俺の股間も自然と膨らんできた。俺の想像力もたいしたもんだ、と感心する。

<出していい?> <OK>
涼葉は俺の描いた絵の上に、横長の、フランスパンみたいな線を描いた。
<大きーい>と脇にシラっとして書くもんだから、俺は笑いをこらえるのに必死だった。腹が痛い・・・俺は涙を拭きつつ、
その線の先に亀頭を追加した。
<このくらいはある> <失礼した。本物見たことないんで>ってことはやはり涼葉は処女なんだな。
俺はちょっとホッとした。

涼葉のペンは止まり、俺をみる。
<触るよ> <ああ>
涼葉はペンをまた線に沿わせるが、今度は擦るように左右に動いた。動きはリズミカルで優しい。ペンがカリの所を上がり、
先端までゆっくり這う。線のアウトラインをそのままなぞり、下までいったらまた戻る。
<気持ちいい?>俺は迷ったが<気持ちいい>と答えた。涼葉の手は休まず、繰り返し俺のモノを撫で続けた。

<段々硬くなってきたよ> <意外と上手いな> <どうも> <これも勉強したのか?>
<まあね。本とかネットでたいていのものは調べられる> <そうか。それにしちゃ慣れてる> <慣れちゃいない>
涼葉の速度と筆圧が上がって線が太くなる。
<怒った?> <別に。こっちに集中>
ペンが激しく動いてモノが段々黒くなる。カリカリと紙の上を滑るペンに過ぎないが、俺の方は高まっていった・・・・
ペンが止まる。
<どうした?>

 涼葉は軽い溜息をついてペンを置いた。
「ちょっといけないな」涼葉がつぶやく。
「なにが?」俺も小声で訊く。涼葉はノートを閉じた。
「遊び半分だったけど、これ以上したらその・・・マズイ」
だからなにがだよ、って思ったが、涼葉は顔も合わせずさっさとノートを仕舞う。横顔は少し紅潮していた。涼葉は席を立ち、スタスタ
と図書室を出た。当然俺は後を追った。
「おい、待てよ」涼葉の肩を掴んで止めた。振り向いた涼はハッとするくらい可愛かった。


「これ、忘れ物」俺はシャーペンを差し出す。
「あ・・・うん」涼葉らしからぬ慌てぶりで、俺からペンを受け取って顔を伏せた。

「で、どうしたんだよ。トイレか何かか?それなら勝手に行けばいいけど」「違う」「じゃあ何だ?」
涼葉はゆっくり周りを見回す。放課後の廊下には、音楽室から流れるブラバンの音が遠く響くだけ。

「高さんは、キスしたいって思ったことあるか?」「キス?」いきなり何を言い出すかと思えば・・・
昨日から涼葉はおかしい。何か別のスイッチが入ったかのようだ。
「そりゃないことないけど。ただ自慢じゃないが俺、誰ともつき合ったことないし、経験とかないから語れないぞ」
自分でもびっくりしたが、こんな告白をしてしまった。ホントに自慢出来ることじゃないよな、キスの経験ないなんて。
 しかし涼葉は笑いも、からかいの様子もなく目線を床に向けたまま言った。
「わかると思うが私もない。ただ、さっき、無性にしてみたくなった。高さん」
「?」
「私とキスしてみないか?」
そんな言葉が静かに涼葉の口から出た。
「いや、好きだとか恋愛感情はこの際無視してくれていい。ただ・・・興味があるんだ。もしよかったらで構わないんだが・・・・」

 俺は混乱していた。驚かされぱなっしの俺だが、おそらく今日のクライマックスはこれだろう。
涼葉は俯いたまま黙っていた。俺はいろいろ考える。確かに涼葉はこうしてみると面白いが、話し始めたのは昨日から(しかも
あんな状況で)だったし、まだどうこう意識している段階ではない。
だが、涼葉は恋愛抜きでいいと言っている。おそらくこれも好奇心なのだろう。俺の気持ちもきっと・・・5秒ほどの沈黙。

「すまない、変なことを言った」「いいよ、俺でよければ」二人の声が重なる。
涼葉が顔を上げた。
「いいのか?」
「ああ、興味あるだけだろ。俺も興味あるし、利害一致だ」俺はポン、と涼葉の肩を叩く。涼葉は顔を上げて軽く頷いた。
「場所を変えようぜ。いくらなんでもここじゃ」
「そうだね、上はどうかな」そう言って涼葉は階段を上った。ここは最上階の4階だったからこの上は屋上へ続く踊り場で行き止まりだ。
「幸い先客もいない」
「屋上は、開いてないな」
「鍵持ってこようか?」「生徒会は持ってるのか?」「何故かスペアがあるんだ」そう言って涼葉は笑顔になった。
「いや、そこまでしなくていいだろう」
「わかった」


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