「市内の体育大会の時だった」
ベッドで二人肩をくっつけ寄り添って寝ていると、突然涼葉が話し始めた。
「二年の陸上部は三中で競技会があったんだが覚えている?」「ああ、覚えてる」
さすが記憶力もいいんだな、と思っていたら涼葉は俺の頬を突っついた。
「なにすんだよ」「ここまで話せば、と思ったがやはり記憶の外だったか・・・期待してなかったけど」
そう言って天井を向いた。
「なんの事だ?」
俺が本当にわからないで訊くと涼葉はふーっとわざとらしく溜息をついて話し始めた。
「私も昔は陸上部だったんだ」
「えっ?ウソっ!」
涼葉とスポーツっていう取り合わせがあまりに似合わないと勝手に想像していたので、俺はつい笑ってしまった。そこをまた
涼葉が指で突っつく。
「驚き過ぎだ」「ああ、悪りぃ」
「まったく・・・・」「それで?」ちょっとの間。
「その頃私は部活でのタイムもよくなかった上、部でも居心地が悪かった」
「そりゃ二年じゃ後輩もいるからな。速い奴がいればそっちが優遇される世界だし」
「人付き合いが元々苦手だったんで、運動部に入れば変わるかと思ったんだがその考えは浅かった」
「中学デビューっていっても知り合いも多いし、高校と違って上手くいかないだろう」涼葉は力無く笑う。どうしたんだ?
「口べたでタイムも冴えない陸上部員は自信も無くして、結局悪循環になる。同学年は勿論、後輩からもバカにされる」
「涼・・・虐められたのか?」
急にシリアスになって俺の口調も硬くなる。そんな空気を読んでか、涼葉は笑いながら首を振った。
「違うんだ。そんなことは無かったよ。ただ自滅していったんだ。ネガティブな奴は誰もイヤだろうし」
いつもクールで、なんでも出来き、何があっても動じない強さがあるってイメージがあったが、涼葉も普通の女の子なんだ。
そんなことにあらためて気づく。
「そして、その体育大会があった。当然私も陸上部で出たんだ。勿論選手ではなかったが」
「まさか・・・」さすがに俺も察してきた。
「ああ、そこで高さんが走っているのを見たんだ」
「あの時は俺も選手で出てたな、確かに」
大会が五月だったからまだ陸上を楽しんでいた頃だ。
「格好良かった。そんなに速い選手じゃなかったけど」「ほっとけ」
さっきのお返しに涼葉の頬をつまんでやった。
「でも楽しそうだったよ。いい笑顔だった」
そう、あの頃の俺はまだ毎日が楽しく充実していた。そりゃイヤなこともあったが、走っていたらそんなものすべてが些細に思えてた。
「試合が終わって私は後かたづけをしていた。ハードルを運んでいたんだが、そのとき躓いて倒れてしまったんだ」
「どんくさっ!」
そうからかいながら俺は思い出していた。あの時の・・・
「そのどんくさい女子に優しく気遣ってくれたのは誰だ?」
競技も終わって、もう自分の学校に戻るって時、両手でよたよたとハードルを抱えながら歩いている体操着の女子がいた。そう、転ば
なきゃいいんだが、って思っていたらやっぱり転んで。
『おい、大丈夫か?怪我してねーか?』
って声をかけた。顔は覚えてない。っていうか、うつむきながら大丈夫です、って言ってたから。
『そこの倉庫だろ。手伝うよ』
俺はハードルを拾い上げて倉庫まで運んだ。その女子はずっと俯いていたが、最後にはありがとうございました、と小さな声で・・・
「思い出したか?高さん」
「まさか、あの女子、涼だったのか」
「そうだ。まったく気づかなかったのか」
「おい、そりゃ気づかねーよ。おまえずっと下向いたまんまだったし」
涼葉も本気で覚えているとは思ってないのだろう。こんなこと日常の些細な出来事だったから。でもこれは涼葉にとって大事なこと
だったんだ。

「あれから私はその男子が気になって学校と名前も調べた。もっともそれだけだったが」
「なんで会いにこなかった。涼ならいつでも歓迎してたぜ」
「ストーカーと間違われるのもイヤだったんでね」そう言うが、涼葉としてはそこまでするような気持ちでもなかったんだろう。
ただ、憧れの存在として心の中で・・・とか自分で思って赤面してしまった。
「部活は楽しくなかったが三年生まで続けたんだ。それもその格好良い誰かのせいでね」
「俺のせいかよ!」
「走っていれば繋がっていると思ったんだ。またいつか会えるかもって」
「乙女チックだなぁ。似合わねー」
涼葉はスルー。
「そうしたら三年の大会に出て来ないじゃないか。ああ、もう引退して受験に専念勉強してるんだ、やっぱり凄い人だって思っていた。
今日まではな」
今度は肘で俺の脇腹を押した。
「うわっ、勝手な想像すんな。まさか今まで勉強してんのも俺のせいだって言うんじゃないだろうな?」
「だとしたらどうする?」
「こうする」
俺はキスをする。不満げな表情。
「それで済むと?」「んん・・・」
「じゃあこれでどうだ?」
と俺は涼葉の股間に手を伸ばす。ビクリとする涼葉。指をクイクイ動かしてやる。
と、涼葉の手が俺のモノに伸びて掴んだ。今度は俺が腰を引く。
「っておい」
「こうすれば気持ちいいのだろう?」
涼葉は微笑みながら指を軽く絡めてくる。ちょっとSっぽい表情でゾクゾクする。俺のモノは一気に硬くなってゆく。
「まだいいのか?」
「勿論。ほら、こんなに貰っている」
涼葉は5、6包のコンドームをシーツに置いた。
「浅井さんからは随分期待されてるみたいだな」
「ああ、感想聞かせてくれと言われたよ」
「それは断固辞退しろ」
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