外はまだ雨が降っていた。俺は走った。生徒会室のドアを開いて尋ねたら涼葉はさっき出たばかりだという。
まだ間に合うかもしれない。
そして廊下の途中で気づく。自転車は使えない。
でもそんなの構わなかった。俺は靴を履き替え、外に出た。裏門から出る。
雨は相変わらずシトシトと降って頭を、制服を濡らす。俺は深呼吸。駆け出した。
脚の動が鈍い。違う、もっと軽く、飛ぶように・・・俺はイメージする自分と追いつかない体に焦る。
それでも走るしかない。俺は走った。
大通りに出た。バスの路線だとここから駅までこの一本だ。でも駅近くは信号や渋滞でそんなに早く走れないはずだ。
追いついてやる、絶対に!
走る。通りを渡って、俺は近道になる路地に入る。息が荒くなる。でも俺は休まない。
走っていくうちに、段々昔の感覚を思い出してきた。
スピードは遅い。雨に濡れた服が更に重くしているし、走り込んでいないから当然だ。
けれども走っている時の気持ちは、中学の時に戻った感じになっている。
いける、まだ間に合う。涼葉に会える!
路地でのショートカットから再び大通りに、そして横切ってそのまま駅までまっすぐに。
駅に到着した。
バスのロータリーを見るが、どれが涼葉の乗っているバスかわからない。
追いついたとは思うんだが・・・ともかく、俺は涼葉の通う塾の辺りで待つことにした。
3分もしないうちに到着したバスから降りる客の中に、涼葉をみつけた。
涼葉は傘を差していたからすぐには気づかなかったが、俺が声を掛ける前に目を上げて立ち止まり、ビックリした
様子で俺を見た。
そして俺を確認すると小走りで近づいてきた。

「よう!」
「どうした高さん!そんなに濡れたままで」
「ああ、えーと・・・走ってきた」
「走ったって、なんで?・・・」
「早く、謝りたかったから・・・ゴメン、涼、ゴメン・・・」
不安な表情になる涼葉。
「えぇと・・・それってまさか」
なんか勘違いしてそうなので、俺は首を振る。
「違う、別れるとかじゃなくて、オレ誤解してたから」
それを聞いて息を吐く涼葉。そしてまっすぐ俺を見て言う。
「なんだかわからないけど、高さん、これからもわたしとつき合ってくれるのか?」
「勿論だ」
俺も久しぶりに真正面から涼葉を見て言った。
「それさえ聞けばいい。高さん、もういいから」
優しく微笑んで肩に手を置く。じんわりと涼葉の温かさを感じる。ちょっと泣きそうになってヤバい。
「しかし、急でなければ明日でもよかったのに」
「今謝りたかったんだ」
「そうか・・・ありがとう」涼葉の言葉が沁みる。
「いや、俺の方こそ」「それと高さん」
「ん?」
「走れるじゃないか。バスに追いつくなんてたいしたもんだよ」
「あっ・・・」
今頃になって気づいた。
「もう走れるんだな、高さんは」
「そうみたいだな。忘れてた・・・・」
涼葉は微笑んで俺の肩を叩いた。
「となると今日はやめておこう」
「え?」
「塾はサボりだ。一日くらいいだろう」
今度は悪戯っぽく笑う。
「涼・・・」
「ウチに寄って休んでいかないか?」
「いいのか?」
「いくら6月とはいえそのままだと風邪を引いてしまう。それとも何か不都合でも?」
「あ、いや・・・ありがとう。行くよ」
久しぶりの幸せな気持ち。俺は涼葉とつきあい始めたこの間に、いかに彼女が支えてになっていたのかがわかった。
道の途中、俺は話し出した。涼葉に聞いてもらいたかったから。
「俺のせいだったんだ」
「?・・・・走らなくなった理由?」
「ああ。陸上部でさ、2年の夏だった。練習してた時に、トラックを横断して部員とぶつかったんだ。ちょっと気がゆるんで
たんだろうな。ぶつかったのは大会走る選手でさ、骨折はなかったけど避けようとして変に捻ったのか、10月の大会まで出ら
れなかったんだ、俺のせいで」
「そうだったのか」
「それからまったく走る気がおきなくてな。ぶつかった奴とは仲も良くて、そいつも許してくれたんだけど・・・」
昔の記憶がまた思い出されて俺は言葉に詰まった。涼葉は静かに継ぐ。
「高さんの気持ちとしてはまだ整理がつかないんだな」
「うん、そいつの選手としての大事な時期に、俺がふざけていたせいで・・・」
「謝ったんだろう、高さんは」
「ああ」
「それで許してくれたのだから、もう済んだことだよ。勿論そういう悔やむ気持ちは残る。それは高さんがその相手に対して
負うべくして、記憶にあり続ける事だ。でもそれで人生が左右されてはいけない」
「そんな大ごとでもないけどな」
「いや、高さんは大きく影響を受けている」立ち止まって涼葉はみつめる。
「やけに断言するじゃないか」
「私にはわかる」強く言う涼葉。
「ともかく、高さんはまた走ることが出来た。今日はそれだけで十分嬉しい」
優しい口調になって、言った。
「お前が嬉しがることか?」
「走っている高さんが好きだからね」
「?」
「さぁ、急ごう」
涼葉は先にたって、本当に急ぎ足で家に向かった。
<トップ> <6話-2> <7話-1>