一週間経った。梅雨に入って雨が続き、俺の気持ちと同じく重苦しい空がその日も朝からたれこめていた。
 その上、登校中自転車の後輪がパンクして、俺の気分はますますブルーになった。なんとか遅刻せずに間に合ったが、蒸した教室で俺は
不快な汗を拭いイライラしていた。

 あれから察しのいい涼葉は俺に無視されているのを気づいてか、自分から話しかけてくる素振りもみせなくなった。
 これでいいんだ、と思いつつ俺は寂しかった。まったく勝手だ。わかってる。もはや自棄になっている。

 午後から雨が降ってきた。梅雨らしいシトシトと降る雨だ。
 授業が終わって俺は帰り支度。涼葉は多分生徒会に行って、そのまま塾だろう。そんな予定覚えていても仕方ないのに。

 パンクした自転車は学校近くの自転車屋に預けるか、金持ってないや、とまた暗くなった所で教室の入り口に田島の彼女、浅井さんが
立っていた。
 田島を捜してるのか?と思ったら俺の顔をみて手招きをした。

「どうしたんですかミサ先輩」
「高水くん、ちょっと話あるんだけどいいかな?」
「別に構わないですけど」「じゃ、一緒に来て」
 俺はそのまま浅井さんについていった。

 渡り廊下を通って俺達は学食に入った。この時間は料理は出ないので厨房も静かだ。
 自販機で紙パックのジュースを買って、明かりが消えて薄暗い食堂で俺は浅井さんと向き合って座った。

「雨続くねぇ」
「鬱陶しいですよね」一口飲んでから浅井さんは切り出した。

「涼ちゃんとケンカしてるの?」
 いきなり直球で俺は言葉が出ない。
「涼ちゃん言ってたよ。高水くんに避けられてるみたいだって」

 驚いたが、俺の知らないところで浅井さんと涼葉は話しをしているらしい。あのカラオケ以来、俺は田島と話しなんかしてなかったが、
涼葉は田島や浅井さんと会っているんだ、とここで軽い疎外感を感じた。と同時に、その流れで涼葉は田島の手に・・・とよぎる不安。

「別に・・・ケンカとかじゃないですが」
「じゃあ避けてるのはホント?」
「ええ、まぁ・・・涼って忙しいじゃないですか。だから邪魔しないようにって」
「嘘言うな」「えっ?」
「こっち向いて話して」

 浅井さんの厳しい口調に俺は背筋にヒヤリと汗。
「涼ちゃんのこと、嫌いになったの?」
 静かに尋ねる。俺は首を振る。
「嫌いになってませんよ・・・」
 俯いた俺の顔に浅井さんの視線が強く向けられているのがわかる。俺はまた汗をかく。

 ジッとみつめられて沈黙。浅井さんは腕を組んで、なにか考えているようだ。
 そしてしばらくして頷くと、フーッと溜息をついた。

「嫌いじゃないんだね」
「はい・・・」
「じゃぁわかった。キミは涼ちゃんにかまって欲しいんだな」
 俺としてはなんとも応えられない。
 ほぼ図星だったから。

「まったく男の子はわがままだなぁ〜わかっててそういう事して。まぁ気持ちは分かるけどね」
「はぁ」
「しっかりしなよ」
といわれてもすっかり落ち込んでいた俺の気持ちが戻るわけもない。それにあの疑問がまだ残っている。

 暗いままの俺をみて浅井さんはまた溜息をついた。そして上を向いて思案したあと、俺に言った。

「キミがそのまんまだと涼ちゃんも悲しくなる。だから日にちが来るまで黙っておくのが常識だけど、あえて言うよ」
 言うって何を?

「高水くん、キミの誕生日は7月だよね」
「え、はい、そうですが、なんでミサ先輩が?」
「この前の日曜日に彼と涼ちゃんと『三人』で買い物行ったんだよ。キミの誕生日プレゼントを買いにね」
「えっ・・・」
「涼ちゃん、男の子の好きなものわからないっていうから、彼と一緒になって選んでね。っていってもアドバイスしただけで、
最終的には涼ちゃんが選んでたんだけど」
「涼が、俺の・・・」
 再び俺の頭の中でいろいろと渦巻く。

 涼葉が俺の為に誕生日プレゼントを買ってくれた。それはこの前俺が都内にいた日だ。あの時、涼葉は田島と一緒にいたが、きっと近く
に浅井さんもいたのだろう。ちょうど見えなかったか、離れた場所にいたのかもしれない・・・疑惑が晴れてきた。大体、つき合うつもり
もないのに忙しい時間を割いてわざわざ誕生日プレゼントを買いに行くか?涼葉は今でも俺のことを好きでいてくれている。
それは確かだ。だけど、それなのに俺は、俺はなんで・・・・

「浅井さん!」「おっ、いきなり何?」
「ありがとうございます!」
 俺が頭を下げると、浅井さんは優しい笑顔になった。

「わかってくれたんだね」
「はい」
 すっかり晴れた気持ちと共に、どうしようもない俺を好きでいてくれた涼葉に謝りたかった。
 疑ったりした俺の心の小さな所とか、そんな事言ったらあきれてフラれるかもしれないけど、それでも俺は本心をぶつけたかった。

「俺、行きます」
「うん。涼ちゃんは頭いいからキミのこともわかってるし、今でも好きでいてくれているよ」
「はい!」俺も浅井さんに笑顔で返して俺は食堂を出た。



<トップ> <6話-1>  <6話-3>