で、翌週の土曜日になった。今度は急に予定が、とかそういうのもない。晴れて絶好のデート日和だ。
駅で待ち合わせなので少し早めに来たら、もうすでに涼葉は待っていた。
「おはよう。早いな」
「おはよう。待たせちゃ悪いからね」
そう笑う涼葉だったが、やっぱり気にしてるんだろうな。俺も前回の件を責めるつもりはなかったが、顔に出ていたのかもしれない。
気を付けよう。
「それで予定通りかな?」
「そうだな。とりあえず水族館だ。いいだろ?」
「勿論。高さんが魚好きとは知らなかったけど」
「別に好きってほどでもないが・・・それともやっぱり他のにするか?」
「いやいや、そうじゃない。私も好きだ、魚は。例えばイナズマヤッコとか」「イナ・・・はぁ?」
「ハナヒゲウツボもきれいでいいな。もっとも魚というかウツボなんだが」
「ああ、わかった。なんか知らんが観にいこう。説明はそのときに聞くよ」
「うん。そうしよう」
涼葉は気を遣ってくれたのかもしれないが、あまり俺が考え過ぎるのもよくないだろう。
俺は俺なりに二人で楽しめそうなことをするだけだ(性的にじゃなくてもな)。
電車で水族館に行って、水槽やイルカのショーなんか観て、思ったよりも楽しかった。それは久々の水族館だったというのもあるん
だろうけど、隣で喜んでいる涼葉がいるからだっていうのが一番の理由だと思う。
ちょっと遅い昼飯は歩いて見つけたパスタ屋で。全然計画的じゃないが、それもまぁいいかと。あんまりキメ過ぎても引かれるかも
しれないし。
といってもその後あてがあることもなく、ブラブラと手をつないで散歩。疲れていないというので、歩いて近くの公園まで行った。
ベンチに座ると、5月の緑がきらめいて眩しかった。
スゲー健全な俺達の初デートだ。出会いがあんなだったからおかしな方に行ってたが、元々俺だってエロで頭が一杯ってわけじゃない。
こういう正当派な(?)デートというのに憧れていたっていうのもあって、俺的には楽しめてる。乙女男と笑えたきゃ笑え・・・
「ああ、久しぶりにのんびりした気分だ」涼葉は伸びをする。
「涼、いつも忙しいからな。たまには息抜きしろよ」
「わかっているんだけど、なかなかね。でも今日は楽しかった。ありがとう」
「急にそんなこと言うなよ。俺達のデートはこれからだぜ!」
「それは最終回っぽい」
穏やかな気分というのはこういうものなんだな。
「そういえば、忙しかったら弁当とか作ってこなくていいからな」「えっ!・・・イヤだったのか」
涼葉の表情が途端に曇る。俺は慌てる。
「だから違げーってんの。作ってくれるのは嬉しいけど、それが負担になるなら」
「負担だなんて思ったことはない。そう思わせてしまったのはやはり手抜きし過ぎているから・・・」
「そうじゃねーっての。ああっ!じゃぁ、これからも頼む。涼の弁当好きだから」「本当に?」
「ホントだ」
そこで涼葉がニヤリとする。
「わかった。じゃあこれからも続けよう」
俺はホッとすると共に、なんだか遊ばれているような気がしないでもなかった。
涼葉があんまり遅くなるのはマズイってことで、俺達は電車で地元に戻ることにした。いつか泊まりで出かけられたらいいとは思うが、
それはまだ先の話だろう。いや、夏休みなんとかならないか・・・と降りた駅で妄想中の俺。ツンツンと隣りの涼葉が俺の腕を突っつく。
「なんだ?」「あれ」
と、顔を向けた方には4組の田島とその彼女が歩いていた。つき合ってるんだろうし当たり前だったが、こっちとしてはまだあんまり見ら
れたくないってことか。涼葉はちょっと顔を伏せて歩く。
俺としてはもう別に公にしてもいいって思うんだが、涼葉はダメなんだろうなぁ。っていうか俺みたいなのとつき合っているのがバレる
と恥ずかしいのか?いや、そこまで卑下しなくてもいいだろうが、ちょっと気になる。
だがこういう風に隠れたりすると意外と見つかりやすいものだ。そういう性格なんだろうが、田島は俺達に気づくと笑顔になって近づい
てきた。そう、こいつはフレンドリー過ぎだ。

「よぉ、高水!デートか?」ストレートに訊くな。空気読めよー。
俺は隣りに向いて確認。涼葉は軽くため息をつくと、少しだけ頷いた。一応了承。
「ああ、そうだ。今帰りだよ。田島もだろ」
「おう、俺達はこれからだけど。そうだ、これからカラオケとか行かねー?」
「これから?いや遠慮しておこう。門限あるみたいだし」
なんだか涼葉みたいなしゃべり方になったのは、きっと一日いて伝染ったからだろう。
「えーっ、まだ早いじゃん。彼女もどう?最後のシメにカラオケで盛り上がるってのは」
涼葉にふってもダメだろ。ここで涼葉が断って、それで帰りか、と思って俺はすっかり帰る気になっていた。
が、涼葉は俺の予想外の応えだった。
「いいよ。2時間くらいなら」
「なんだ、いいって言ってんじゃん。高水」
「いいのか?」「うん。まだ大丈夫だ」
「いや、っていうか、カラオケとか・・・」「問題ない」
涼葉とカラオケっていうのは結びつかなくて勝手にそういう賑やかなのは嫌いなんじゃないかと思っていたが、どうやら違うようだ。
俺はまた涼葉について改めて見直さないといけない。こういう新しい一面を知るのもつき合うってことなんだろうな。
「じゃぁそこ行こう。俺の知り合いがいるからサービスしてくれるし」「おお」
と、田島は駅前通りのカラオケ店にサッサと入った。あまりのマイペースぶりに、俺と田島の彼女も笑っていた。
「初めまして。浅井ミサです」
田島の彼女は意外にも丁寧な挨拶だったが、俺達も返答。田島が呼ぶので俺達は部屋へと入った。
「彼とは同じクラス?」「ああ、いやそういうんじゃないですが」
田島の熱唱(結構上手い)をバックに俺は浅井さんに返事をする。『さん』なのは彼女が3年ってわかったからだが、そう言われれば
確かにお姉さんっぽくも見える。
「浅井さんは、田島といつからつき合ってるんですか?」
「ミサでいいよ。いつからって半年くらい前かな。きっかけは・・・」浅井さんは田島みたいな奴とつき合っている割には(っていうか
教室であんなことしている割には、というべきか)真面目な印象だった。田島は明るくてちょっと軽い感じだが、それを微笑みながら見
守っている感じで、そこがバランス取れているのかなと思う。
「それで高水くんと津木さんのきっかけは?」あっ、やっぱりそう振ってくるよな。さて、どう言えばいいのか。
この感じだと田島は浅井さんとのエッチが目撃されたって言ってないみたいだし・・・・
「タカ〜次入ってんぞ」田島がへらへらと俺の背中にのしかかってくる。助かった〜
「涼、あとは頼んだ」
回答は涼葉に丸投げ。涼葉は俺のことをジッと睨むが、溜息をついて肩を落としてハイハイ、という感じで頷いた。涼葉ならなんとか
上手い言い方をしてくれるだろう。多分。
歌っていたから何を話しているのかよく聞こえなかったが、涼葉はそれなりに納得する話をしてくれたらしい。
それにしても田島が彼女に見られたことを話さなかったとはね。田島なりの優しさなのかもしれない。そもそも教室でする事は間違って
いるとは思うが。
涼葉は割と無難に歌っていた。凄い音痴か凄く上手いってギャップも面白いんだけどな。
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